失われた厳冬期 甲斐駒ヶ岳 2024

竹宇駒ヶ岳神社に参拝を済ませ尾白川渓谷に架かる吊り橋を渡る

ここから日本屈指の急登と名高い黒戸尾根の登りが始まる

足元は僅かに氷があるが周りを見渡せば落ち葉の斜面が広がっていてチェーンアイゼンを履くことをやめた

結局三合目あたりまでは北側を歩く一部分だけが氷化していてそれ以外は無雪期と変わらぬ様相だった

黒戸山が近くなると落ち葉よりも雪で覆われた部分が多くなったが、以前ラッセルで雪をかき分けた記憶は幻であったかと自らを疑ってしまう

今は2月半ば

本来であれば最も寒く雪も多い時期のハズ…

それなのに気温も高く体感的には4月かと思わずにはいられない

七丈の小屋にお世話になり夜明け前に山頂へ向かう

必要十分で無駄な設備のない素朴な山小屋は好ましい

加えて美味しいカレーが振舞われるから文句の付け所がない

山はカレーが一番(持論)

八合目御来迎場にて正しく大日如来の降臨を迎える

朝焼けが山頂を染める

始めて黒戸尾根を登ったのは20年以上前

その時は石の鳥居が立派に建っていたのを覚えている

古の修験者もまたここで日の出を拝み山頂へと向かったのだろう

変わりゆく世界に変わらないものは、きっと大切なものに違いない

先日降った雨は流石に2000mを越えた場所では雪だったようで新雪を踏みしめて行く

今年は山で雨が降ることが多すぎる、その分雪解けも進む

雪は深かったが幸い八合目までは昨日の登山者がトレースを刻んでくれていた(八合目の先で敗退したようだったが)

もっとも山頂までトレースに導かれるよりは自らルートを選んで進む方が潔い

厳しい寒気はなく風も心地よいほど

富士山の高嶺が二本剣の奥に佇む

北アルプスの山並みが空に浮かぶ一条の雲のように連なっていた

鎖場を過ぎて尾根の北側に乗ると風で雪が吹き払われ歩きやすくなった

ここまでくれば山頂は近い

南アルプスの他の山々は雲に包まれ頭を隠している

流石に山頂の風は冷たかったが耐えられないほどではない

いつまでも登頂の余韻に浸っていたかったが長い下山のことを思い山頂を辞した

長い長い黒戸尾根を下る

昨日よりも更に春めいた景色に半ば呆れてしまった

暖かく雪が少ないのは楽だけど

何だか寂しい気持ちになってしまう

私の知る雪山が遠くなってしまったようだ…