灼熱の厳冬期・焼岳

昨夜の雨は明け方になっても雨のままだった

宿の主人の「朝は道路がガチガチに凍結しているから気を付けて」という言葉も杞憂に終わった

本来、厳冬期と呼ばれるこの時期に標高1500mを越えるこの中ノ湯温泉でさえも気温はマイナスではなかった

15分ほど歩いて無雪期の登山口となる場所までたどり着くころにはジャケットを脱ぎ捨て、素手にならなければ汗をかいてしまうほど暑くなっていた

幸い雨は止み、ガスが上がり始め太陽の光が周囲の高い尾根まで届き始めていた

しばらく続くシラビソの林の中をわずかな起伏を繰り返しながら登っていく

雨で湿った雪からようやく新雪へ変わるころにはすっかり空は晴れ渡っていた

風はなく静寂の中、時折消えかけたトレースを探りながら歩いていく

概ねひざ下のラッセルで新雪の下にはしっかりと締まった下地があるので苦しいものではなかった

緩やかな登りがひと段落し平坦な道を行くと目の前に焼岳の双耳峰が劇的に現れる場所へとたどり着いた

暗い森から光あふれる台地へ

北峰と南峰のコルからは白い噴煙が真っすぐ天に向かって立ち昇っている

日差しは強く既にTシャツ一枚の姿で大汗をかきながら歩く

雪は急速に腐って重く靴にまとわりつく

堪らずワカンをつけて本格的な登りへと備える

春山を思わせる強烈な日差しと気温

下手をすれば熱中症で倒れてしまいそうなのを気力で耐える

ゆっくりと休憩をとれる場所でもないので歩みを止めず歩き続けた

かすかだったトレースは完全に途絶え重い雪を踏みしめながら

高度を上げると雲海が山麓を包み隠していた

尾根に上がったところでようやく一息つく

私たちが作ったトレースを利して足の速い登山者が追いかけてくる

暑さと思い雪に疲労がたまる

それでも頂上は少しずつ近づいている

雲海に浮かぶ乗鞍岳が美しい

引き返すタイムリミットを12時半に定めていたが本当にギリギリの時間で山頂に立つことが出来た

穂高連峰が背後に聳えはるか遠くの山まですっきりくっきりと見晴らすことができた

風もなく温かい

ここは標高2455mの焼岳山頂

季節は1月半ばである

この時期にこの格好でゆっくりと休憩できることが不思議でならない

今年は未だかつてないほどに高温が続いている

私の知っている山とは違ってきていることを肝に銘じなければいけないと思う

こんな陽気もあれば這いつくばって歩くことさえままならない時もある

山は美しく

山は厳しい

山は寛容で

山は残酷だ

悲しみや苦しみを乗り越えて

いつまでも登り続けていこう