「 剱見るなら赤谷尾根でよ 大窓小窓にね 三ノ窓 ヨカネ~♪ 」
というわけでGW前半は剱岳の赤谷尾根をたどった。
「静かな雪山ルート」というクライアントのリクエストはGWということを加味するとなかなかの難題ではあったが、幸いたどり着いた馬場島は静寂に満ちていた。
フキノトウの誘惑に負けつつ白萩川に沿った林道を歩く。
トレースはまばらにあって貸し切りというわけではなさそうだったが、静かな山旅は期待できそうだった。
聞けば立山駅ではケーブルのチケットを買うのに3時間待ちという状態だったらしいから、対照的なものである。
林道から尾根に取りついて少々ヤブのある急登をこなすとブナクラ谷を挟んで大猫山が大きな山容を見せていた。
登るほどに視界は開け、剱岳の頂も頭を覗かせていた。
北方稜線や小窓尾根の厳しい山容も景色をより引き立てている。
時折、雪稜は不安定なナイフリッジとなって辛うじて尾根にとどまっている。
こんな時は先行者のトレースがあるとずいぶんこなしやすいものだ。
剱岳と富山湾を望む絶好の場所に幕を張る。
参加者の一人はテント泊事体が初めてとのこと。
雪山では簡素な食事で済ませがちな私も、初めての幕営を楽しんでもらおうと柄にもなくゴージャスにしてみたがレストラン並みに美味しく食べることができた。
朝までテントを叩いていた雨も落ち着いてきたので出発する。
テントの中では少しの雨でも音が増幅して不安をあおるものだ。
実際歩き出してみれば大したことはないことが多い。
山頂直下は急な雪壁となっていたが一歩一歩慎重に足を進める。
たどり着いた赤谷山の山頂は雲が高かったため幸い剱や後立山の山並みを眺めることができた。
残雪の山々のまだら模様は美しく、はっきりとした陰影はよりいっそう心に深く刻まれる。
雪の安定したブナクラ谷を下る。
最後に近道しようとしたらやっぱりヤブに阻まれたりして、この時期のルートファインディングの難しさをあらためて感じたが、それでも楽しみながら下山することができた。
喧騒のGWであっても場所を選べば静かな山を楽しむことができる。
そのキーワードは急登、藪、幕営といったところだろう。