あるいてざぶ~ん 栂海新道 2024

穂高から始まり荒々しい稜線を連ねる北アルプスであるが

白馬岳を境に趣をガラリと変える

雪倉岳・朝日岳を代表に山々は丸みを帯び優しい姿となり

稜線も広々と伸びやかになる

標高を下げるとともに豊かな森林が包み

天然の棚田のように湿原が続く

湿原には大小の池塘が空を映し

次第に稜線は高度を落とし遂には海へと続く

栂海新道は日本列島の屋根と呼ばれるアルプスの高山帯から

里山と呼ばれる低山まで全ての標高帯を味わうことのできるルートである

このような縦走路は世界的に見ても珍しく

日本が誇るトレイルといえるだろう

栂池から大岩の重なる登山道を登り白馬乗鞍岳を越えると
眼下に白馬大池が現れる

雲上の湖と呼ばれる白馬大池は北アルプスでも風吹大池に次ぐ大きさを持つ

この日は池のほとりに建つ白馬大池山荘に泊まる

穏やかで心休まる気持ちの良い場所だ

明日、登る小蓮華山へと続く道が見えている

翌朝は暗いうちにスタートする

振り返ると大池が光っていた

朝日小屋までの長い道のりを歩く

広く見晴らしのよい稜線が続くが一度荒れれば遮るものがなく厳しい

早出、早着で天候が安定している午前中になるべく先に進むことが大事

街は雲海に沈み白馬三山の頂も笠雲に覆われている

前を行くパーティーも風景にマッチして絵画的

三国境から北に進路を変えて雪倉岳を目指す

周囲に生える高山植物は鮮やかに色づき白い岩に映える

来たし方を振り返ると白馬岳が大きい

久方ぶりに朝日小屋へとやってきた

ここは北アルプス最北部の営業小屋

いつ来てもおもてなしの心を感じる素敵な小屋

富山の名物、ホタルイカの沖漬けや昆布締めが美味しい

ラーメンも絶品

この小屋から見る夕日は外せないイベントのひとつ

その名も「夕日ヶ原」の方へ足を向けると更に素晴らしい景色が広がる

刻々と色を変える雲にしばし見とれる

深い霧の中の出発となったが山頂へ近づくと空が抜けてきた

雲海の上に飛び出したのだ

文字通り朝日岳で朝日を迎える

照葉の池が空を映す

気づけば白馬岳は遥か遠くに佇んでいる

今日もまた稜線は雲海の上

出発前は雨勝ちな予報で雨具を着て歩くことを覚悟していたが
予想は見事に外れた

五輪山から黒負山への吊り尾根から雲海が溢れた滝雲となって落ちている

向うに雨飾山が孤島のように浮かぶ

だんだん標高をおとす

道は雲の上へと続いている

黒岩山を過ぎると笹が深くなり獣の気配が強くなった

大きなフンもそこかしこにある

熊鈴を鳴らし叫びながら進む

北俣の水場で水を汲んで急な犬ヶ岳を越えると栂海山荘へと飛び出す

ここは栂海新道を開いたさわがに山岳会の管理する小屋

綺麗に整い快適な避難小屋として登山者を迎えてくれている

この日の宿泊者は我々を含めて11名

お陰でゆったりと利用させて頂いた

最終日は海へと向かう訳だが実は一番厳しい道のり

アップダウンがこれでもかと続き道も悪い

途中にある白鳥小屋は快適な小屋だが水場の不安もある

登山者のマナーとして小屋の周りは美しく保ちたいものだ

金時坂と呼ばれる長く急な下りを終えると林道の横切る坂田峠に出る

ここまでタクシーが入れるので電話に手が掛かりそうになるがぐっとこらえて先へ進むことにする

ここで栂海新道の開祖である小野さんから管理を引き継いだ長野さんと出会った

長野さんとは登山研修所の研修会で私が講師を勤めた際に参加されていて私を覚えて下さっていた

大きなザックで道を整備しながら白鳥小屋へ荷揚げに行くそうだが私にはあの金時坂を登る自信はない

樹々の間から日本海が見え隠れするが一向に近づかない

まだまだ登りが控えていて我々の心を砕きにくるのだ

それでも重力に引っ張られるように下っていくと車の音が大きくなり国道へと飛び出した

大きな達成感とともに4日ぶりにコンクリートを踏む

親不知にある一軒宿の親不知観光ホテルは縦走路の起点として登山者にとってはありがたい宿

下山するものはここのお風呂で汗を流すことが出来る

気力をしぼって海へと続く長い階段をおりる

残り10m

遂に海抜0mへとたどりついた

日本海の荒波に飛び込む!

…ことはできず徒に足を濡らす

この達成感は唯一無二