宇奈月温泉から始発のトロッコに揺られ見上げた山は白く輝いていた
先日の雨は高い山では結構な積雪となったようだった
白い山はアナウンスではサンナビキ山であると伝えていた
自分にとって遠い頂だった山を労せずして見上げていることに少し不思議な思いがした
欅平から急な尾根を登り切ると「水平歩道」と呼ばれる断崖に穿たれた道を行くようになる
戦前に電力を求めて道なき道を切り開いた歴史がそのまま残されている
頭をぶつけそうな隧道を幾つか通り抜けていく
時折、ヘルメットをザックに付けたまま歩いている登山者があるが何かご利益でもあるのだろうか?
露出感の高い大太鼓の岩場
身のすくむ断崖絶壁
壁際には番線が延々と張られていて万が一での手掛かりとなる
というより精神的な拠り所といえるだろう
折尾の大滝を過ぎれば阿曽原は近い
たどり着いた山小屋はいつもと変わらぬおもてなしで心が温かくなる
もちろん山懐のいで湯で身体も芯から温まる
平日だというのにテン場は隙間なく埋まっている
湯船も芋洗いでもう少しゆったりと入りたいのは贅沢というものか…
夜半からトタン屋根を強い雨が叩いて朝になっても止む気配がなかった
長い道のりを歩いてここまで来たのだから同じ道を戻るのはずいぶん気が引ける
だけど濡れた岩場のコンディション、この時期に衣服が濡れるリスク、
雨が雪に変わってただでさえ悪い道に積もったら進退窮まること
いろいろ考えて欅平へ来た道を戻る決断をした
中止や敗退の決断をするのもガイドの役割
どんな条件でも行くのならここではガイドはいらないだろう
降り止まぬ雨は時々ミゾレとなった
昨日まで紅葉していた場所の木々にも雪が積もって更に白い部分が増えていた
また阿曽原の温泉に入る機会を得たことは幸運であったと言えるだろう