明星山 P6南壁 フリースピリッツ

あの時、夜明け前の薄暗がりの中、目の前に現れた壁はとにかく威圧的で
まだ20代でフリークライミングのマルチピッチの経験すら僅かな私にとって心胆寒からしめるには十分だった。

明星山は北アルプスの前衛峰で日本海に注ぐ姫川水系・小滝川上流に位置する1,200mに満たない山である。

周囲の山から突出した高さはなく朝日岳以北の稜線や特異な山容の海谷山塊に埋もれるようにひっそりとたたずんでいる。

しかし、ヒスイ狭と呼ばれる小滝川に沿った林道から見上げる姿は凄まじく、日本でも屈指の岩壁を備えている。

 

荒々しい石灰岩の岩壁は高差400m。南壁のほかにもいくつもの岩壁を張り巡らせている。

傾斜は強く、ところどころにハングを擁している。

岩に引っかかった流木を利用して対岸へ渡る。

ここを渡るのは実に15年ぶりである。

出だしは藪が多い。

岩も脆いので慎重に…。

前日までの雨で正直、壁はビショビショ。

特に出だしは土の上を歩くことも多く、濡れ&泥のミックスで極めて滑る。

登るにつれ乾いている部分も出てきたが、半分は水が滴っている。

とにかく慎重に登る。

濡れた石灰岩スラブは侮れない。

核心の梅干し岩へのトラバース。

ランナウトする部分も多い。

陽が当たって岩もずいぶん乾いてきた。

下りのトラバースなのでフォローも一切気が抜けない。

ハング帯を右に左にかわして登っていく。

初登者のラインどりの素晴らしさが伺える。

高度感が凄まじい。

大きくせり出した「城塞ハング」

高度感満点のトラバース。

脆い岩にも気を遣う。

ときおり垂直の壁を登る。

フリースピリッツはかつて人工登攀で登られていた南壁をオールフリーで登れることを示した歴史的なルートである。

13ピッチと長い登攀距離に加えて、複雑なラインを読む目、支点構築技術などグレードには現れない難しさが詰まっている。

下降路も不明瞭で迷いやすい。

かつて私も下降中に日没を迎え散々迷いながら苦労して降りた経験がある。

あの時に比べれば、ずいぶん余裕をもって登ることができた。

少しは成長したのかな?