After コロナの登山
この3ヶ月、私たちを取り巻く環境は想像もできないほど大きく変わりました。
今、私たちはどうすべきか? この先、どうなるのか?
考えてみました。
※山を取り巻く環境は日ごとに変っています。
当ブログは5月4日の時点での考えをまとめたものであることをご承知おきください。
目次
・近況報告
・今どうすべきか?
・登山再開の日はくるのか?
・After コロナの登山
・私たちに求められること
・最後に…
近況報告
4月6日に緊急事態宣言が発出されてから約1ヶ月が経ち、さらに5月末まで延長されました。
私自身もガイド業は休業。
経営するクライミングジムに関しては3月3日から営業自粛して今に至っています(3月に一時営業再開しましたが)。
日々、体力維持の為に家からクライミングジムまでランニング(12kmほど)、ジムで設備のメンテナンスやホールドづくり、ハリボテづくりなどをしています。
ジムに行かない日は自宅・羽村周辺の自然や神社などを歩ける(走れる)範囲で巡っています。
幸い東京都といえど自然の豊かな場所で多摩川の土手までは1分。
川を対岸に渡れば草花丘陵など素晴らしい環境にあります。
移動手段が車から徒歩になることで普段見過ごしている身近な場所の魅力に気づかされています。
また、今までやったことのなかったヨガを妻と一緒に行っています。
これまでひたすら山や岩に向けていた意識を他に向けることで新たな発見、家族との時間が生まれています。
自分で想像していたよりも今現在の生活に順応できているような気がします。
この1ヶ月は家族以外との接触はほとんど95%以上減っています。
先日、zoomを利用したオンライン会議を行ってみたら意外と違和感なく良いものだと思いました。
今どうするべきか?
穏やかな日常ですが、これが「この先いつまで続くのだろう?」と不安に思っている部分もあります。
山を愛する皆さんもウズウズする気持ちをぐっと抑えて Stay Home されていることと思います。
いつの間にか山は春から夏へと向かっています。今どうするべきでしょうか?
ここで私の考えをお伝えします。
緊急事態宣言の間は登山・クライミングを行うべきではない。
理由は以下の通りです。
① コロナ感染を防ぐ
② 医療機関・救助体制への影響・負荷を避ける
③ 社会的な影響への配慮
① コロナ感染を防ぐ:
登山口への交通(電車・バス)や立ち寄ったコンビニやサービスエリアなどで感染を広める可能性があるということ。
混みあった山頂やトイレ、山小屋などは感染リスクがあります。
② 医療機関・救助体制への影響・負荷を避ける:
怪我や遭難をするつもりで山へ向かう登山者はいませんが、毎年必ず遭難事故が起きています。
これは注意すれば良いというものではなく一定の割合で起こるものという認識も必要です。
初心者・ベテランに関わらず事故は起こします。
事故が起きた場合、救助隊が出動します。
ここで問題なのがコロナ感染者が要救助者だった場合、救助隊も2週間の隔離措置が必要となってしまうことです。
その間、事故が起きても通常通りの救助体制は保障されません。
実際、先日八ヶ岳でもまさにこの恐れていたことが起こってしまいました。
休業している山小屋も多く逃げ込んだり、助けてくれることはありません。
普段の山よりもリスクは大きい状態です。
医療機関に関しては現在、通常よりもコロナへの対応で精いっぱいの状況となっています。
地方の医療体制はただでさえ脆弱です。
怪我の治療だけなら問題ないかもしれません。
でも、もし怪我人にコロナの疑いがあったら?陽性者だったら?万が一、その場でクラスターが発生したら?
一件の遭難事故が地元の方々のための医療を崩壊させてしまう可能性があるのです。
③ 社会的な影響への配慮 :
普段でも山で遭難事故があるとネットなどで一斉にバッシングを受けます。
大いに反論したい問題ですが事実です。
登山は不要不急の代表格とされているといっても過言ではありません(私たちにとっては必要なものですが)。
これを踏まえると現在、事故を起こすことによる登山者へ向けられる目は一層厳しいものとなるでしょう。
入山禁止されている山へ登ることはもっての外です。
クライミングに関してはより直接的なダメージが懸念されます。
「交通の便が良いエリア=人里に近い」ということが言えます。岩がある土地、岩そのものにも所有者がいます。
クライマーは人様の土地を利用させてもらっています。また周辺の住民たちの生活圏に入っています。
岩場のある田舎にコロナ感染は広がっていません。そこへ感染が広がっている地域から来る人がいれば嫌がられるのも当然です。
これはリスクの問題だけではなく気持ちの問題でもあります。
日頃はクライマーを温かく迎えてくださっている地域、また少々迷惑でも目をつぶってくださっている方もいるかもしれません。
今の社会情勢で岩場へ行くことは、そんな方たちの好意を踏みにじることと同じと思うべきです。
岩場は簡単に利用禁止、閉鎖へと追い込まれます。
過去にそういった悲しい過去を残念ながら繰り返してきました。
そして岩場を利用するために尽力して下さっているローカルのクライマーの努力も水泡に帰してしまうことを忘れてはいけません。
「禁止じゃないから行く」「感染の危険は少ない」は極めて短絡的思考です。
たった1~2ヶ月我慢しなかったために、今後一切利用できなくなる可能性が大きいということを心に刻みましょう!
登山再開の日はくるのか?
Q: 6月になって緊急事態宣言の期間が終了したら今まで通りの登山ができるでしょうか?
A :おそらくできません。完全再開の日は数年先になる可能性があります。
これが私の予想です。
では、「皆さん登山から離れなければならないのか?」「私はガイドを辞めなければならないのか?」
というと「そうではありません。」
野外活動である登山は室内よりも感染しにくい環境といえます(山小屋の大部屋などを除いて)。
おそらく次の段階を踏んで再開されるのではないかと思っています。
① すべての登山・クライミング活動を自粛
↓
② 県境をこえない、危険度の極めて低いルート・アクティビティ限定
(バリエーション登山などは不可、クライミングはトップロープのみなど)、マスク着用、3密を避ける(グループでの登山を避け移動手段に配慮する)
↓
③ 以前と近い形での登山・クライミング再開
事実、諸外国では徐々にガイドラインに従ってアウトドア活動が再開され始めています。
下の画は段階的に自粛解禁されたアメリカの岩場利用のガイドラインです。
どんな内容かかいつまんでみると。
・なるべく岩場に行かない
・遠征しない(近くの岩場に行く)
・行政、ローカルのガイドラインに従う
・3密を避ける(混んでる場所、時間をさける、大人数で行かない)
・危険を避ける(救助隊を要請しないように)
といった内容です。
これはクライミングのものですが、今後の登山再開へ向けても参考となるものでしょう。
After コロナの登山
先ほど「以前と近い形での登山」という表現をしました。
これは「おそらく全く同じ形には戻れないだろう」ということです。
一つは従来通りの山小屋は形態を改めなければならない可能性が高いということです。
大部屋で雑魚寝・一つの布団に2名以上という古くからの形はなくならざるを得ないでしょう。
個室化、予約制が定着していくことになりそうです。
これに伴い宿泊料金は跳ね上がると思われます。
そしてテント泊に人が流れテン場も混雑し予約制になるでしょう。
一部の山小屋ではコロナ以前から検討されていたようです。
人気の山は混雑を避けるため人数制限が設けられるかもしれません。
実際ニュージーランドのトレッキングルートではこの形が採用されています。
山小屋の定員に合わせて人数が決められています。
予約を取ることは難しいようですが、取ってしまえば非常に快適なようです。
私たちに求められること
多くの課題が目の前にあって乗り越えていかなければなりません。
しかし、これらをプラスに捉えることもできると思っています。
富士山や屋久島、連休の北アルプスなど異常な混み具合の山は入山料をとって予約制になれば快適に歩くことができます。
渋滞も起きないのでコースタイムも予想しやすいし落石のリスクも減る、自然環境も保たれやすくなります。
見渡す風景は人混みではなく、より純粋な自然なものになるでしょう。
また、入山料を使って登山道を整備したりトイレを設置したりすることができます。
前述した救助体制への影響も考える必要があります。
これはもともと脆弱だった救助体制が新型コロナウイルスの為に浮き彫りになったにすぎません。
私たちはより安全登山に努める必要があります。
まず第一に事故を起こさないこと。
今まで以上にリスクマネジメントが重要になります。
余裕のある行動計画、入念な下調べ、非常装備の携帯が求められます。
道に迷わないため読図やGPSを活用する技術、セルフレスキューやファーストエイドについてもより重要になるでしょう。
近年、救助要請の件が増えています。
これは事故の件数が増えているというより通信の発達により救助要請し易くなった為です。
昔だったら自力下山していたところを安易に救助要請している場合も少なからずあるでしょう(もちろん必要な時には要請すべきですが)。
不必要な救助要請を減らせるようにしっかりとした知識・技術・装備を備えましょう!
救助体制の拡充はコロナウイルスに関わらず必要なことです。
登山者の多くが声を挙げることで初めて行政に伝わります。(入山料を救助隊の人員・機材拡充に利用できればよいのですが)
最後に…
今まで書いてきたことはあくまで今現在での予測に過ぎません。
この予測より良い方向へ進むことを願っています。
私たちは登山再開、新たな登山様式への適応をしていかなければなりません。
再開された後の登山がより快適に、より安全にバージョンアップしたものにしていきたいものです。
私はこの危機を登山業界をよい方向へと転換していくチャンスだと捉えています。
様々な問題が浮き彫りになった今、転機となるでしょう。
今後、皆さんの取り組みに対して少しでも力になれるように努力していきたいと思っています。
遥かなる頂きへの道のりを一歩ずつ歩いていきましょう!