朝起きて外をうかがうと地面を白いものが覆っていた。
昨夜、吹き荒れた嵐はみぞれ交じりのもので剱沢周辺での初雪となったようだった。
吹き付ける風は冷たく9月までのそれとは明らかに違って肌がこわばる。
幸い、天気は回復傾向で谷沿いを進む私たちに支障はなかった。
途中の剱沢雪渓は10日前と比べると驚くほど脆弱になっていてほとんど高巻きを強いられた。
紅葉の盛りの真砂沢を経て二俣の吊り橋を渡る。
辺りの樹々は色付き始め秋の気配が漂っている。
それでもなお三ノ窓雪渓は豊富な雪を残していた。
山を覆っていたガスが次第に取れ始め、日が差した部分の紅葉が輝きを増す。
急登を終えて峠から仙人池ヒュッテを見下ろすと周辺は紅葉の盛りを迎えていた。
周囲のどこを見渡しても感嘆の声が挙がる。
たどり着いた仙人池は今日も変わらず剱岳の荒々しい稜線を映していた。
富山の山小屋はどこも登山者を暖かく迎えてくれる。
仙人池ヒュッテは到着するとまず始めに「お疲れ様」といってお茶を差し出してくれる。
夕方になると一度はガスに覆われた稜線が再び姿を現した。
仙人池ヒュッテの以前の主人が「何カ月いても毎日が感動の連続」と言っていたのにもうなづける光景だ。
翌朝、すっきりと晴れ渡った空に突き出た剱の頂が朝の光に浮かび上がった。
皆の視線をくぎ付けにする壮大なドラマが繰り広げられる。
仙人谷に付けられた険しい道を下り休業中の仙人温泉へとたどり着いた。
後立山の山々が惜しげもなく姿をあらわにしている。
阿曽原へ一泊し温泉で疲れを癒す。
翌日の水平歩道は一歩たりとも気の抜けない道。
登山道の整備には本当に頭の下がる思いだ。
圧倒的な自然とそれに向き合う人々の歴史がここに刻まれている。