韮崎から佐久へと続く国道141号線を走り清里を過ぎると、
不意に周囲が明るく開け、八ヶ岳が目前に遮るものなく姿を現す
権現岳から赤岳へと続く南面の稜線が美しいスカイラインを描いている
それよりまして目を惹く存在が岩峰連なる天狗尾根だろう
西面の登山口の喧騒をよそに人気のない林道をたどる
午前中までの大雨で増水した沢を渡りながらこじんまりとした出合小屋へとたどり着いた
ここは地元の山岳会の管理する小屋だが一般の登山者にも開放されている
20年ほど前の夏、独りで地獄谷をキレットまで遡行した時から変わらぬ姿で佇んでいる
ここがもし営業小屋であったなら数百倍の人が集まる場所になったに違いない
このまま静けさを保ち続けて欲しいものだ
ライトを点けて天狗尾根へと取り付く
少しずつ東の空が明るみを増し権現岳が浮かびあがる
双耳峰のように並んだ権現岳と旭岳が朱く染まる
前線が過ぎ去った後の澄み渡った青空
樹林帯を抜けるとカニのハサミの双塔が近づく
雲海の彼方に秩父連山が浮かぶ
昨日の雨は上部では雪
この季節は気象判断が難しいし積雪も不安定になりがちなものだ
岩峰群を縫うようにかわしていく
ワンポイント傾斜のある岩場を過ぎて大天狗を振り返る
なるほど山麓からも目立つ存在感のある岩峰だ
小天狗はスリムな岩峰で容易に巻くことができる
吹く風は冷たいが、どこか春の柔らかさを帯びている
主稜線に出ると馴染の深い赤岳と阿弥陀岳が近い
気の抜けぬキレットの下りを過ぎて振り返ると天狗尾根岩峰を連ねている
その風貌はヨーロッパアルプスの針峰群を思わせる
ツルネへと登り返すと正面に権現バットレスと旭岳・五段の宮を正面に望むことができる
次はあそこと思いを馳せながら気の抜けないツルネ東稜を滑り落ちるように下った