室堂ターミナルを出ると横殴りの雨が叩きつけてきた。
風はうなりを上げて身体を揺さぶる。
遊歩道を何度もよろめきながら進む。
どうにか〈みくりが池ヒュッテ〉へたどり着き思案する。
剱沢小屋までは長い行程ではないがこの時期の風雨は怖い。
事実、気象遭難の多くは晩秋に起きている。
無理は禁物と快適な温泉につかり嵐が過ぎるのを待つこととした。
翌朝、霧雨の中暗いうちに宿を発つ。
予報通り、剱沢小屋へ着くころにはすっかり青空が広がった。
昨日のんびりした分、今日は仙人池までしっかり歩く。
極端に少ない今年の剱沢雪渓。
今まで見ることのなかった滑滝が出現していた。
普段は雪渓を横断して左岸へ渡るが、今年は渡渉が必要。
昨日の大雨はだいぶ引いた様子だが、思い切りの必要な飛び石をしなければならない。
後続の登山者は足を滑らせ腰まで水に浸かってしまったそうだ。
二俣にて初めて裏剱と対面する。
ここからの絶景はいつ来ても心躍る。
三の窓雪渓は豊富な雪を残すが、大きく割れ崩壊が激しいようだ。
今年の紅葉は遅いようだ。
僅かに気の早いナナカマドが赤く染まっていた。
湧きたつ雲が峻険な岩場をいっそう際立たせ、威厳を与える。
静かに水を湛える仙人池。
世間の喧噪をよそに変らずそこにある。
小窓のコル。ここから稜線歩きが始まる。
小窓の頭を巻く道は目印が的確についていて迷う心配がなくなっていた。
池の谷ガリーを詰める。
次第に青空の割合が広がってきた。
すれ違ったパーティーがピークに立っているのが見えた。
踏み跡の薄い稜線の道は自分の眼で歩く場所を見極める必要がある。
判断の遅れやミスは行動の遅れ・トラブルに繋がるものだ。
次は八ツ峰へ…。思いを馳せる。
山頂直下はあえて岩稜ルートへ。
ここが一番岩が硬く快適。
変化の激しい秋の空。
上手にお付き合いすれば絶景に出会うことができる。
静寂の稜線とは裏腹に室堂界隈には多くの人で賑わっていた。
自粛の反動か、密を避けて密を作る。
「なんとも滑稽」と山が笑ってる。