夏の終わりの八ヶ岳。
稜線を吹き抜ける風は確かに秋の訪れを告げていた。
硫黄岳のまどかな稜線。
写真として一部を切り取ってみればどこか遠い惑星を思わせる趣がある。
穏やかな様相とは裏腹にここは何時でも強い風が吹いて登山者を困らせる。
裏側には壮絶な爆裂火口を秘めていて八ヶ岳がまさしく火山で合ったことを証明している。
横岳山頂に立つ。
ここから鎖場の連続する稜線となる。
赤岳の背後に、これから向かう権現岳、編笠山が顔を覗かせる。
振り返れば横岳西壁が岩壁を連ねている。
赤岳山頂は相変わらず人が多い。
休憩もそこそこに腰を挙げてキレットへ向かう。
文三郎道を分けると途端にすれ違う人は稀になる。
脆い岩場に傾いだ梯子。
一歩も気の抜けない道。
難路に立つキレット小屋は唯一のオアシス。
山に囲まれた静かな小屋でのひと時は何物にも代えがたいひと時。
夜はハーモニカの音色とともに更けて行った。
阿弥陀南稜途中にある獅子ヶ岩。登られることは稀な不遇な岩稜。
権現岳へ向かう稜線は阿弥陀南稜と並行して続いている。
ツルネのピーク付近にはコマクサがまだ残っていた。
キレット縦走のハイライトとなる長い長いハシゴ。
3日間の縦走は雨に降られることもなく素晴らしい天気に恵まれた。
雨の辛さを知って青空の美しさを知る。
八ヶ岳は母のような懐の深さで何時も私たちを温かく迎えてくれる。
おそらく山を続ける限り足を向ける場所だろう。
季節が過ぎ去るのは早いものだ…。