深夜、1時30分
大谷原からライトを点けて歩き出す
大川沢右岸の林道をたどる
気温は高く重く湿った雪が足にまとわりつく
3度ほど渡渉し取水堰堤付近のいやらしいトラバースを過ぎると荒沢に出合う
荒沢をわずかに遡上して天狗尾根へと取り付く
以前、天狗尾根を歩いたのは20年ほど前
その時は尾根上まで雪の斜面を駆け上がった記憶がある
今回はルンゼ状の雪渓から登り始めるとすぐに雪が途切れる
3月に多少の降雪があったとは言え異常な寡雪であることには変わりない
ライトの光に照らし出されるのは黒々とした斜面のみ
落ち葉の下にはスラブ状の岩があって意外に悪い
念のためロープを出して通過しその後は藪漕ぎ
尾根に乗るとようやく雪が現れ始めた
高度を上げると雪も締まってきた
東の空がどんどん明るんで太陽が昇る
パートナーは同じG登攀クラブの二人、みな同い年、40代半ば
2人は今夏、ヒマラヤ遠征を控えている
私もまたアラスカへ向けてトレーニング中である
尾根上は辛うじて雪が引っ掛かっているようなナイフリッジ
気温が上がって雪が緩めば通過は危険すぎる
クーロアールを駆け上がって天狗の頭へ
天狗の頭から北壁を望む
コルから雪壁を1時間ほどトラバースして取り付きへ
蝶型岩壁に掛かる氷瀑「氷のリボン」
既に登れる状態にないと踏んで主稜を目指したが思いのほかしっかりと発達していた
山の氷は暖かい方が成長することもありコンディションを読むのが難しい
スノーコルより見た目より急な雪壁に取り付く
上部に掛かる氷瀑の右を登るラインを目指す
まともな支点を得ることは難しく
苦労してハーケン3枚を叩き込みアンカーを作る
20mほどの氷を登るが持参したスクリューは2本
幸いアックスの効きは良かった
上部からスノーシャワーとともに落石が不気味な音をたてて頭上を飛び越えていく
夜明けと共に越えたいセクションだがアプローチに時間を取られたのが痛い
その後は延々と雪壁をたどる
雪が緩んで足がとられる
上部からは定期的にチリ雪崩が落ちてくる
とにかく止まらずにステップを刻み続ける
天狗尾根上部の稜線に飛び出せば北峰の頂は近い
山頂は風もなく穏やか
剱岳(左端)より厳しく美しい北方稜線が連なる
沢山の思い出が詰まった山々にしばし思いを馳せる
デブリが埋める北俣を降りる
底なし沼のようなラッセルを危惧していたが予想は良い方に外れてくれた
フキノトウを頂きながら林道を歩いて15時30分に大谷原に帰り着いた
約14時間のラウンドトリップ
余裕をもって下山できたことを仲間に報告すると
「もう一本いけただろ!」との厳しいご指導…
次は2ルート継続か!?