黒部横断 2022-23 その⑤ 真砂岳~剱岳~早月尾根~伊折

Day12 -1月6日 風雪のち晴れ

希望の朝

埋まった雪洞から雪をかき分けもぞもぞとモグラのように這い出すと相も変わらず吹雪いている

雪洞内に戻ってしばらく待機

こういうことには慣れているので全く動じない

高気圧が近づいているので遅かれ早かれ晴れてくるだろう

1時間ほど待つと視界はないがガスが明るみを帯びるようになってきた

感覚的に上空が晴れていることを感じる

麓から山を見た時に山の稜線だけ雲に覆われていることがあるが、今はそんな感じだろう

未だ視界はないが雪洞を後にし真砂岳の山頂へ向かうこととする

山荘近くの雪洞に籠っていた富山起点のパーティーも同じく出て来ていて挨拶を交わす

彼らは内蔵助小屋の前で3日間停滞していたそうだ

彼らも同じく剱岳を越えるとのこと、「その日のうちに伊折まで下山する」という意気軒高の猛者である

一昨日よりも視界はあるが以前、稜線をなめるように烈風が吹き抜けている

コンパスを頼りに歩みを進め別山へと向かう

時折、青空が見えて別山の山体が露わになる

別山からは剱御前を越えて稜線伝いに別山尾根へ入るのがセオリーだが
積雪が安定しているとみて、強風を避けるために剱沢経由で一服剱を目指す

一服剱手前では深いラッセルで結局、後発して御前経由できた富山起点のパーティーに抜かされた

以降は爆発的な彼らのラッセルの恩恵に預かることとなった…

振り返ると純白の雪面に浮かぶように剱御前が佇んでいた

別山尾根に乗ると空は完全に晴れ渡った

ブカブカの東面とは打って変わってガチガチの西面

危うげなクライムダウンを交えながら進む

高度も上がって息も弾む

富山平野を望むとゴールが近いような気がして少しホッする

平蔵の頭を越えると剱岳の頂が顔を出す

カニのタテバイはロープで確保しながら進む

入山12日目にしてようやくたどり着いた剱岳山頂

艱難辛苦を越えて!

フィナーレに相応しい大展望が広がる

早月尾根の下降はあくまで慎重に

視界があることが何よりも幸いだ

鎖のついた岩場をコンテでトラバースしていると先行していた鈴木の姿が消えた…

よく見ると彼に繋がっているロープは穴の中に続いている

近づくと自分も落ちそうなので5分ほど静観していると、もぞもぞ這い出してきた

なんでも3mほどのシュルントに落ちたとのこと

よく落ちるヤツだな…

そうこうしている間に大分、陽が傾いてきた

刻々と変わる空の色に見とれながら下っていく

振り返ると剱尾根の上に満月が昇っていた

夕闇に急かされるように下る下る

ようやく早月小屋に着いた時には完全に暗闇の中

それでも安全圏にたどり着いた安心感に包まれる

Day13-1月7日 曇り

安全な早月尾根を下る

日に日にやつれていくオジサン達をしり目に20代前半のテツは日に日に元気になっていく…

回復力の違いをまざまざと見せつけられる

馬場島でお決まりの写真をとってお世話になった警備隊にご挨拶を済ませ

とどめの林道歩きをこなして長い旅を終えた

思えばかつてないほどトラブルに見舞われ厳しい縦走だった

そんな苦しい思いは吹き飛んでしまうほど仲間と共にした縦走は楽しく素晴らしかった

この記憶は人生の財産となるに違いない

終わり