剱岳本峰に着くとようやく朝日が雲海の向こうに顔を出した。
後立山連峰全体を滝雲が流れ落ち壮大な景色を作り上げていた。
眩しい光に包まれる八つ峰。
ここまでアプローチは半ば。
道はすでにバリエーションルートに入っている。
長次郎の頭を越えて池の谷ガリーを下っていく。
途中「窓」に寄り道。
三の窓より雪渓を横断してようやくチンネ左稜線の取付きへ。
ここまで5時間以上の道のりだ。
岩に取り付けば快適。
グイグイ高度を稼いでいく。
強い日差しが背中を焼く。
クレオパトラニードルを横目に核心の「鼻」を越える。
傾斜もあって高度感が凄まじい。
さらに続く岩峰も越えていく。
チンネ左稜線は日本を代表するアルパインルートだ。
ガスと風が出てきて少しは涼しくなった。
クライミングは正味4時間。
池の谷ガリーへ懸垂して再び本峰を越えて剱沢小屋へ帰る。
行動14時間40分の長い一日だった。
往復で出会ったのはたった一人だけ。
翌日は台風の風が吹き荒れる中、のんびり下山。
美しい虹が最後を飾ってくれた。