南海上の台風は梅雨前線を刺激し、予報は大雨を警戒するように告げていた。
富士急線・東桂駅へと集まった人々はそんな雨をものともしない猛者たちであった。
鬱蒼とした杉林の中に御正体神社はあった。
この裏手から入山し、鹿留山北尾根へと取り付く。
北尾根には整備された登山道はないが美しい自然林に包まれた尾根で登りごたえもある。
今にも降り出しそうな空模様。濃密なガスが森を包んでいた。
山頂に近づくにつれブナの巨木が目立つようになる。
林床はモミジガサに覆われていた。できれば春先に訪れたい場所。
山頂には象徴的なミズナラの大木がある。
彼は唯一の来訪者を待ち侘びるように佇んでいた。
鹿留山から杓子山にかけての稜線には「クサタチバナ」の花がいたるところに咲いていた。
花言葉は「勇敢」。
奇しくも今日の来訪者へのメッセージとして受け取ることができた。
杓子山の山頂に設置された鐘の音が鳴ると、それを合図とするかのように雨脚は急激に強まった。
雨もまた季節を味わうには欠かせない要素。
衣服は濡れたが、ありのままの自然と正面から向き合うことも登山の一つの魅力かもしれない。