林道のカーブを曲がって飛び込んでくる一ノ倉出合の光景は
初めてそこを訪れる者の心を鷲掴みにする
新緑の美しいブナの林の中を歩いていると出し抜けにそれは現れる
ある者は感嘆の声を挙げ、ある者は沈黙する
前者はこの景色を見るために来た者
後者はここを登りに来た者だ
テールリッジへ向けて雪渓を行く
この下に大きな滝があろうとは想像もつかないだろう
顕著なハングを張り巡らせた衝立岩
三角形の左辺を登るのが中央稜
クライミンググレードは低いがそれだけでは推し量れない難しさがある
岩は動き残置ハーケンはぐらついている
登るほどに高まる高度感
ラインどりも真っすぐではないのでルートファインディングも必要だ
現在のクライマーにとって決して入門的なルートとは言えない
時折、雪渓の崩れる音が谷に重く響き渡る
谷川岳の厳しさは多岐にわたる
終了点の衝立の頭からは6度の懸垂下降が必要
藪があったり屈曲していたり一筋縄ではいかない
懸垂を終えて休憩していると大粒の雨が落ちてきた
あっという間に周囲の岩壁に滝が生まれ沢は増水する
不安定な雪渓が行く手を阻む
増水した沢を更に下降して最後に留めの滝を懸垂
シャワーを豪快に浴び全身濡れネズミとなる
同時に雨は更に強まり辺りを白く煙らせる
出合から振り返ると滝沢が文字通り一続きの滝となり称名の滝を彷彿とさせていた
林道に出てからもマチガ沢が増水し濁流となっていた
念のためスクラム渡渉で突破
最後の最後まで試練を与えた一ノ倉
この経験は必ず人を強くするだろう